地理試験廃止後の研修と対策 | 新人タクシードライバーの「道の覚え方」完全解説
2024年2月29日、東京・神奈川・大阪などで長年おなじみだった「地理試験」が廃止されました。今後は法令・安全・接遇などの試験のみが中心となり、地理そのものは会社研修や現場で身につけていく流れに変わっています。
「じゃあ、もう道は覚えなくていい?」というと、もちろんそんなことはなくて、“道を知っている運転手”はこれからも確実に選ばれます。
この記事では、新人ドライバー向けに、地理試験廃止後の研修の考え方と、効率の良い「道の覚え方」をまとめていきます。
目次
- 地理試験廃止でタクシー業界はどう変わったのか
- それでも「道を知っている運転手」が選ばれる3つの理由
- 入社〜ひとり立ちまで:新人研修の全体ロードマップ
- 最初に覚えるべきは「細かい道」ではなくエリアの骨格
- ナビ全盛時代の「カーナビ・アプリ」との正しい付き合い方
- 同乗教育を120%活かす!助手席でのメモと復習のコツ
- 空車時間がゴールドタイムになる「自主トレ運転」3パターン
- 駅・病院・ホテル・イベント会場――優先して覚える目的地リスト
- 迷いそうな時の“ひと言”で減らせるクレームと事故リスク
- 毎日続ける「道の勉強」とメンタルケアの習慣づくり
1. 地理試験廃止でタクシー業界はどう変わったのか
2024年2月29日付で、東京・大阪・神奈川の試験から地理科目が廃止されました。その後、全国的にも地理試験撤廃の流れが進んでいます。
背景には、コロナ禍で進んだドライバー不足と、インバウンドや観光需要の急回復があります。需要は戻っているのに運転手が足りないため、「参入障壁」になっていた地理試験をなくそう、という方向になったわけです。
一方で、「地理試験がなくなると、地理を全然知らないドライバーが増えるんじゃ…?」という不安もあります。そのため多くの会社では、社内研修や同乗指導で地理をフォローする体制づくりが課題になっています。
2. それでも「道を知っている運転手」が選ばれる3つの理由
地理試験はなくなりましたが、「道に詳しい運転手」が評価される構図は変わりません。
安心感が違う
行き先を告げた時に「○○通りからお行きしますね」と即答されると、お客様の信頼度が一気に上がります。時間と料金の納得感がある
大回りをしていないと分かるルート選択は、クレーム防止にもチップやリピートにも直結します。ナビトラブルへの対応力
渋滞・規制・通行止めなどでナビが変なルートを出した時、最低限の「地理の引き出し」がある人とない人では差が出ます。
「ナビがあるから地理はいらない」ではなく、「ナビ+地理の知識」でプロになる、というイメージが近いです。
3. 入社〜ひとり立ちまで:新人研修の全体ロードマップ
会社ごとに違いはありますが、地理試験廃止後の一般的な新人育成は、次のような流れで考えると整理しやすいです。
- 二種免許取得(教習所+試験)
- 法令・安全・接遇などの座学研修
- いまは「法令・安全・接遇」の試験が主役。地理はこの枠外で会社が教えることが多いです。
- 地理・接客の社内研修(座学+車両を使った実地)
- 先輩との同乗指導(数日〜数週間)
- 単独乗務スタート(売上よりも安全と慣れを重視する段階)
- フォロー面談・追加研修(事故・クレーム防止、地理の補強など)
この記事では、特に「3〜6」でどうやって地理を身につけるかにフォーカスしていきます。
4. 最初に覚えるべきは「細かい道」ではなくエリアの骨格
新人のうちは、つい細い抜け道や裏道を覚えたくなりますが、優先順位は逆です。まずは次のような「骨格」から固めましょう。
- 幹線道路(大きな通り)
- 川・河川敷・橋
- 鉄道路線と主要駅
- 高速の出入口・インターチェンジ
- 市区の境目、大きな交差点名
具体的な覚え方のコツ
「3本の柱」を決める
まずは営業エリアの中で- 南北の大通り 2〜3本
- 東西の大通り 2〜3本
を「柱」として地図に線を引き、その交差点を軸に覚えます。
“地図を見ない日”を作らない
毎日5〜10分でいいので、出庫前や休憩時間に「今日走りそうなエリア」だけ地図を確認します。行きと帰りのルートを意識する
行きのルートだけでなく、「ここから営業所までどう戻るか」「駅までどう戻るか」もセットで覚えると定着しやすいです。
5. ナビ全盛時代の「カーナビ・アプリ」との正しい付き合い方
地理試験がなくなった代わりに、ナビや地図アプリの重要度はさらに上がっています。
ただし「全部ナビ任せ」にすると、いつまで経っても道が覚えられません。
ナビとの付き合い方のポイント
出発前にルートを“予想”してからナビを入れる
「たぶん○○通り → ××通りで行けるはず」と自分で考え、その後にナビを入れて答え合わせします。走行中は“ランドマーク”を意識して見る
コンビニの位置、川を渡るタイミング、ガソリンスタンド、大きなビルなど、「目印」を覚えながら走ると記憶に残りやすいです。ナビの“変なルート”をメモする
狭すぎる路地や、右折しにくい交差点など、「ここは使いにくい」という場所はノートに残しておくと次に活きます。
6. 同乗教育を120%活かす!助手席でのメモと復習のコツ
先輩との同乗指導は、**「最高に贅沢な地理講習」**です。ただ座っているだけではもったいないので、次のように工夫しましょう。
同乗中にやること
- 先輩のルート選択の理由を必ず聞く
- 「今の道って、どうしてこっちを選んだんですか?」
- 「混んでいるときは別ルートありますか?」
- “よく出る行き先+ルート”だけは必ずメモ
例)「○○駅 → △△ホテル:□□通り→××交差点右」
乗務後の復習
- その日のメモをもとに、帰宅前に地図アプリでルートを引き直す
- 同じルートを別日にあえて自分の運転で走ってみる
「同じルートを3回自分で走る」と、かなり記憶に定着します。
7. 空車時間がゴールドタイムになる「自主トレ運転」3パターン
流し営業や配車の合間の空車時間は、地理の勉強時間としても超優秀です。
① 帰庫ルートを毎日少し変えてみる
- いつも同じ道ではなく、「1本だけ別の通り」を通って帰る
- 「昨日より1本外側の大通り」を試してみる …など
② 目的地からの“戻り方”を3パターン考える
例えば「大規模イベント会場」や「観光地」から:
- 駅へ戻るルート
- ビジネス街へ戻るルート
- 営業所方面へ戻るルート
この3パターンを地図上で考えてから実際に走ってみると、街のつながりが一気に見えてきます。
③ 走りながら「交差点名」だけでも覚える
信号待ちの時に、必ず交差点名を見る癖を付けます。
「さっき通った交差点名を3つ思い出せるか?」をゲーム感覚でやると、自然と交差点名のストックが増えていきます。
8. 駅・病院・ホテル・イベント会場――優先して覚える目的地リスト
すべての施設を覚える必要はなく、「優先度の高い目的地」から押さえるのがコツです。
まず押さえたいジャンル
- 主要ターミナル駅・新幹線駅
- 大病院・救急指定病院
- 大きなビジネスホテル・シティホテル
- コンサートホール・スタジアム・展示場などのイベント会場
- 市役所・区役所・裁判所などの官公庁
自分専用の「50スポットリスト」を作る
- 上のジャンルごとに、まずは50カ所を目安にリストアップ
- 1スポットごとに
- 代表的な行き方(幹線道路名)
- 近くの交差点名・駅名
- 混みやすい時間帯・出口
などを書いておくと、そのまま自分専用の「地理教科書」になります。
イベント会場は、開場・開演時間の前後で一気にタクシー需要が跳ね上がる場所でもあるので、早めに押さえておくと売上面でも有利です。
9. 迷いそうな時の“ひと言”で減らせるクレームと事故リスク
地理試験がなくなった今、「分からない時にどう振る舞うか」もプロの重要なスキルです。
迷いそうな時の基本の声かけ
- 「いくつかルートがあるのですが、
早い方・分かりやすい方・少し安い方、どれがお好みですか?」 - 「最短ルートをナビで探しますが、途中で渋滞していたら迂回してもよろしいですか?」
- 「こちらの道でよろしいでしょうか?もしお客様のお好きなルートがあれば教えてください。」
この一言があるだけで、お客様は**「任せっぱなし」から「一緒に選んだ」感覚になり、クレームの発生率がぐっと下がります。
住所だけでピンとこないとき
- 「地図で確認しながらお連れしますので、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」
- 「近くの目印(コンビニ・交差点名・大きな建物)を教えていただけますか?」
と、正直に丁寧に聞くことのほうが、適当に走るよりずっと信頼されます。
10. 毎日続ける「道の勉強」とメンタルケアの習慣づくり
最後に、地理試験がなくなった今こそ大事になるのが、自分で続ける“ちいさな勉強”の習慣化です。
おすすめ習慣
1日3つ「新しく知ったこと」をノートに書く
- 新しく覚えた交差点名
- ショートカットできる裏道
- 渋滞しやすい時間帯・場所 など
週に1回、自分の営業エリアをざっくり描いてみる
- 手書きでOK。完璧じゃなくて「ここに駅」「ここに川」「この通りが○○通り」というレベルで十分です。
落ち込んだ日のメモも残しておく
- ミスやクレームは、「次どうすれば防げるか」まで書けたら、もうそれは成長の材料です。
まとめ:試験がなくても、“プロの地理力”は武器になる
- 地理試験は廃止されたけれど、道を知ることの価値は変わらない
- カギになるのは、「ナビ+地理の骨格+日々の小さな工夫」
- 同乗指導・空車時間・日々のメモを使いこなせば、未経験でも数カ月で大きく差をつけられます。